家庭でも用意しておくべきファーストエイドキットの中身は?プロバスケットボールチームのパフォーマンスコーチがマストアイテムと応急処置の方法を詳しく解説

家庭でも用意しておくべきファーストエイドキットの中身は?プロバスケットボールチームのパフォーマンスコーチがマストアイテムと応急処置の方法を詳しく解説

地域のスポーツクラブや学校の授業で運動やスポーツを楽しむお子さんがいる家庭にとって、怪我は心配事のひとつですよね。家の中や近所で遊んでいる時にも思わぬ怪我をしてしまうことも…。そんな万が一の事態に備えてご家庭でも準備しておきたいのが、さまざまな応急処置用品が入った「ファーストエイドキット」です。救急セットとして販売されているものもありますが、実際どのようなアイテムを入れておくのが良いのでしょうか?今回は、プロバスケットボールチーム「サンロッカーズ渋谷」のスポーツサイエンス&パフォーマンスディレクターである吉田修久さんに、揃えておくべきファーストエイドキットの中身と応急処置の方法を詳しく伺います。

今回お話をしてくださったのは……

今回お話を伺った吉田修久さんは、元バスケットボールプレーヤー。本場アメリカで最新の知識を学んだ経験を生かし、サンロッカーズ渋谷の選手たちが最良のパフォーマンスを発揮できるよう尽力されています。

吉田修久氏
サンロッカーズ渋谷 スポーツサイエンス&パフォーマンスディレクター

1979年生まれ。アメリカの大学でスポーツトレーニングを学び、日本でバスケットボールをプレーしながら大学チームのコンディショニングコーチを務める。再び渡米しNCAAやNBAなどいくつかのチームで実戦の現場を積んだ後、2018年にサンロッカーズ渋谷のスポーツサイエンス&パフォーマンスディレクターに就任。

こんなシーンや季節は、怪我に注意!

バスケットボールをしている小学生のお子さんにはどんな怪我が多いのでしょうか。

打撲、捻挫、擦り傷、切り傷、そして脳震盪など、プレー中の接触によって起こる怪我が多いですね。
バスケットボールは特に接触の激しいスポーツなので、顔面を肘で強打されたり、ユースなどでは相手に向かって走って行った時に止まれずに衝突してしまったりすることが多々あります。また、相手と同じ方向に進もうとしてお互いの顔が衝突し、脳震盪やまぶたの裂傷に繋がることも。さらにはゴール下でボールを奪い合って打撲をしたり、相手に足を踏まれたりすることによる捻挫など、怪我のリスクは様々なシーンに潜んでいます。

また、必ずしもプレーヤー同士の接触だけが怪我を引き起こすのではなく、疲労が溜まった状態でプレーすると体のコントロールが効かずに負傷することもあるんですよ。例えば、ジャンプや方向転換をした際に着地や接地でぐらついてしまい足や膝を捻挫してしまうなど、体調が万全でない時には思わぬ怪我に繋がることがあります。

怪我をしやすい季節や時間帯はあるのでしょうか。

冬など気温が低い季節は体が十分に温まっていない状態で激しい運動をすると筋肉の反応が遅くなり、怪我に繋がりやすいですね。準備運動を入念にして筋温(※)を上げ、関節可動域を上げてから練習することが重要です。一方、夏場は脱水症状を起こしやすい。脱水状態でプレーしていると、ボールや他のプレーヤーの動きに対する反応スピードが落ちるため、接触による怪我や筋痙攣、熱中症などが発生しやすくなります。

※筋温:筋肉の温度のこと

これはバスケットボールに関係なく、お子さんが公園や体育館で遊んでいる時にも注意が必要ですね。

筋温は、季節に関係なく、目覚めてすぐの時間帯は副交感神経が優位に働いて体がリラックスした状態なので、上がりにくいと言われています。そのため、午前中から体を動かすときは、余裕をもった時間に起床して朝食と水分をしっかり摂り体が活発に動ける状態にしておくと、怪我もしにくくクオリティも上がります。

医療用手袋とビニール袋もしっかり備えて!

小学生のお子さんのいる家庭でファーストエイドキットとして用意すべきアイテムを教えてください。

基本のアイテムとして、以下を用意しておきましょう。

  • ガーゼ
  • 絆創膏
  • 包帯
  • 殺菌消毒薬
  • ビニール袋
  • ちなみに、日本のファーストエイドキットにはあまり入っていないのですが、医療用手袋も用意しておくと良いでしょう。海外では応急処置の際に人の血液に触れないように注意することが常識で、手当する際には必ず手袋をし、血液の付いたガーゼはビニール袋に入れてから捨てています。
    また、捻挫や打撲に備えるなら、患部を固定するためのバンテージを用意するのがいいと思います。

    包帯やバンテージは目的によって複数用意しておいた方がいいのでしょうか。

    包帯は患部を圧迫するのか、保護するのかで使い分けます。圧迫することが目的であれば、伸縮性のある包帯がいいでしょう。保護が目的なら伸縮性の無い包帯でも構いません。ただ、ご家庭で用意しておくファーストエイドキットであれば、圧迫も保護もできる伸縮性のある包帯1種類で事足りると思いますよ。ちなみに、自着式の包帯であれば包帯どめやテープが不要なので初心者でも巻きやすく、圧迫を調整しやすいですね。

    覚えておきたい、応急処置の「POLICE」

    怪我やアクシデントに対処するには、どのような方法があるのでしょうか。

    応急処置の基本とされているのは、「POLICE(ポリス)」という方法です。

  • Protection(保護)
  • Optimal Loading(適切な負荷)
  • Ice(冷却)
  • Compression(圧迫)
  • Elevation(挙上 きょじょう)
  • Optimal Loadingの意味である”適切な負荷”というのはあまり聞き慣れない言葉だと思います。これは、打撲や捻挫で患部を一定の方向に動かしたときのみに痛みが出る場合は、痛みの無い方向へ適度に関節を動かせるようにする処置方法です。患部の全てを必要以上に強く固定すると損傷していない筋肉や関節の機能も下がり、回復にとても時間がかかることがあるため、あえて適切な負荷をかけるという考え方です。
    Elevationの”挙上”は患部を心臓より高い位置に固定して血流が行き過ぎないようにすることで、腫れ(又はむくみ)を抑えるのが目的です。

    POLICEを症状によって使い分け、速やかに行うことが、正しい応急処置の方法です。

    ちなみに、「腫れ」はダメージを受けた細胞を一度掃除して新しい細胞を再生させる上で必要な過程で現れる症状なんです。ですが、過度に腫れたままにしておくと健康な細胞までダメージを受けたり、細胞が再生している間にさらにダメージが加わると最悪の場合は骨が変形したり、関節が曲がらなくなったりと後遺症が残ることもあります。ですから腫れたままにしておくのではなく、患部を保護し適度に圧迫することで腫れをコントロールすることが必要なんですよ。

    POLICEを正しく使い分けるには、まず症状を正しく認識することが重要ですよね。例えば「突き指」や「脱臼」、「骨折」はどう見分けるのでしょうか。また、どのようにPOLICEを用いた処置をすべきでしょうか。

    指を動かさなくても痛がるなら骨折の可能性も疑います。指の変形や関節のずれが確認されたら脱臼の可能性もあるので、その場ではアイシングと固定だけして、自己判断せず早急に医者に行ってください。

    具体的な応急処置としては、どの関節をどの方向に動かすと痛むのか確認し、痛みを感じる方向に動かないよう固定してから、アイシングすること。添え木が無ければ鉛筆などでも代用できるし、隣の指と一緒に巻くだけでもある程度の固定はできます。

    足首の捻挫にはどのように対処すればいいのですか。

    包帯やバンテージで患部を圧迫し、アイシングしてください。Optimal Loadingの観点から歩けるなら歩かせても大丈夫ですが、歩けないほどの痛みがあり骨折が疑われる場合は、添え木としてU字型のものなどをかかとの裏からふくらはぎにかけて両サイドから挟むように固定します。いずれにせよ、このケースもなるべく早く医者に行くことが大切です。

    ちなみに、捻挫と骨折はどのように見分ければいいのでしょうか。

    ケースバイケースなので、100%正しいとは言い切れませんが、捻挫は患部をある一定の方向に動かすと痛みを感じます。一方、骨折は動かさなくても、患部以外を触っただけでも痛むことがありますね。

    脳震盪とは具体的にどのような症状なのでしょうか。

    脳震盪とは脳が頭蓋骨の中でぶつかってダメージを受け、一時的に引き起こされる意識障害・記憶障害です。気分が悪くなって吐き気やめまい、頭痛などを伴うことが多く、自力で起き上がれないことや、立っていられないこともあります。私は脳震盪が疑われる選手には、自分の名前・生年月日・その日の日付などを聞きます。
    もしお子さんが頭部を強打して吐き気やめまいの症状があったら、自分の名前や今居る場所を聞いてください。お子さんの将来のためにも、少しでも脳震盪が疑われる場合は必ずプレーを中断し、医師の診断をうける様にしてください。

    擦り傷、切り傷に対してはどのような処置をすれば良いのでしょうか。

    傷口がぱっくり開いたり、めくれてしまっていたりしたら、できるだけ元の状態に近づけてから医療用テープやガーゼの上から包帯で圧迫と保護をします。ただ、傷口を強く圧迫し過ぎると血の流れが止まってしまうのできつくしすぎないよう注意してください。

    ちなみに、バスケットボール中だけでなく、公園で遊んでいる時にも転んで怪我をすることは多々あると思います。そんなときは、傷口に泥などが入っていたら消毒液、無ければ流水で洗い流してください。その後、ガーゼ、絆創膏、包帯などで傷口を圧迫し止血させます。その際、止血したからといって外してしまうと傷口が開いたまま空気にさらされて細菌に感染する恐れがあるので、そのまま当ててしばらく様子を見ることが大切です。

    「この程度なら大丈夫だろう」という思い込みは危険

    応急処置をするとき、吉田さんが一番心がけていることは何でしょうか。

    最悪のケースを想定して対処をすることです。「この程度なら大丈夫だろう」という判断が選手の将来を変えてしまうこともありますから、怪我の状態が判断できないときは、なるべく早く専門家に診せるようにしています。
    また、怪我をした本人は冷静さを失いがちなので、コミュニケーションをしっかり取って状況を判断すると共に、心のケアもするよう努めています。

    痛みを隠してプレーを続行する選手もいますよね。吉田さんの心構えは小さなお子さんを持つご両親にも当てはまると思います。怪我を防ぐため、スポーツをする前にやるべきことはありますか。

    準備運動をしっかりさせてください。少し走って体が温まったからといってすぐに運動しても、まだ体の準備は整っていません。関節可動域をあげるウォームアップやバランストレーニングをして筋肉を活性化させてからプレーすると怪我のリスクを抑えられます。

    疲労が溜まることで怪我につながるケースもあると仰っていましたよね。スポーツの後にやるべきことはありますか。

    バスケットボールのように特に下半身に負担のかかるスポーツをした後は、下半身に溜まった血流を押し戻すように、ふくらはぎから太ももに向かってゆっくりマッサージするなど、ストレッチを練習後や寝る前などに行うといいと思います。若いお子さんでも使った筋肉は硬くなり体のバランスが崩れたりします。自分で自分の体をケアする習慣を小学生から取り入れていると筋肉の発達も良くなり、怪我の予防にもなりますよ。

    家でも簡単にできる!怪我予防には体幹を鍛えるエクササイズを

    コロナウイルス感染拡大の影響で、家にいる時間が長くなり運動やスポーツが思ったようにできない小学生もいると思います。体がなまると急に運動やスポーツをしたときの怪我の原因にもなると聞きました。家庭でもできるエクササイズを教えてください。

    私がおすすめしたいのは、基本動作と体幹を鍛えるエクササイズです。両足でスクワットの動作を行う、片足立ちで両手を上げた姿勢を20〜30秒保つなど、道具がなくてもできることはいろいろあります。腕立て伏せの状態を10〜20秒ほど体が真っ直ぐのまましっかり保ち、それができたら次は片手や片足で挑戦してみるのもいいでしょう。

    長時間座りっぱなしなど同じ姿勢のまま動かないでいると、筋力が弱まり関節の可動域も狭くなってしまいます。定期的に無理なく出来る範囲で体を動かすことを続けてみてください。

    最後にスポーツを楽しむ小学生のお子さんがいる方に向けてアドバイスをお願いします。

    多少無理をしても大丈夫だろうと長時間休憩なしに練習させる方もいますが、動き続ければ体は疲労していきます。それが続くとオーバーユース(使い過ぎ症候群)になり、パフォーマンスは確実に落ちる。「何故できない?」「気合が入っていない!」と責めてしまう人もいますが、そうすると子どもは自分の症状を言い出せず結果的に無理をして怪我につながるケースがあります。動いたら十分休んで必ず回復させるというサイクルを守ってあげるのはご両親の役割です。お子さんたちの将来のためにも、しっかり緩急をつけて運動やスポーツを楽しめる環境を作ってあげてください。

    便利なアイテムと正しい知識で怪我に備えて

    運動やスポーツは楽しいですが、無理をすると怪我をしやすくなります。そして、お子さんが怪我をした時の為にファーストエイドキットをしっかり揃え、ご両親が症状を見極めて正しい応急処置をすることが大切です。吉田さん、ありがとうございました。

    なお、タマガワエーザイではファーストエイドキットセットや、応急処置に必要なアイテムを販売しています。これからアイテムを揃える方はぜひ参考にしてくださいね!

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