日本人の国民病、「腰痛」!知っているようで知らない腰痛の詳しい症状や対処・予防法を医師にインタビュー
厚生労働省の調査(※)によると、日本人が症状を自覚する病気やけがのランキングでは、男性の第1位・女性の第2位が「腰痛」です。腰痛は日本人が自覚する症状として非常に多いことが分かります。ただし、一言で腰痛といっても「ぎっくり腰」や「椎間板ヘルニア」、「坐骨神経痛」など種類はさまざまで、原因も異なります。今回は、整形外科の先生に腰痛に関する疑問に答えていただきました!
※平成28年 国民生活基礎調査
今回お話をしてくださったのは…
タマケアLab.編集部が伺ったのは丸の内線・南阿佐ヶ谷駅近くにある松浦整形外科内科院長の井上留美子先生。整形外科医でありながらホームドクターとしての役割を大切に考え、『診断がつけば治療が決まる』『治療の先には運動療法』を理念に掲げて日々診療を行っていらっしゃいます。
井上留美子先生
松浦整形外科内科院長
日本整形外科学会認定医 スポーツ医 リウマチ医 運動器リハビリテーション認定
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
聖マリアンナ医科大学スポーツ医学講座 研究員
意外と知らない「腰痛」の事実!複数存在する病名や要因とは
「腰痛」といっても、「ぎっくり腰」「椎間板ヘルニア」「坐骨神経痛」などいろいろな名前を聞きます。そもそも腰痛とは症状を指すのでしょうか。それとも病名ですか。
腰痛とは、その名の通り「腰が痛い」という症状を表す言葉です。腰が痛い場合は基本的に「腰痛症」と診断されます。腰痛症は特定の症状を指すのではなく、腰痛を引き起こすさまざまな疾患の総称です。
腰痛症をさらに細かく分類するとどのようなものがあるのですか。
一番多いのは「腰部筋筋膜炎(ようぶきんきんまくえん)」といい、腰周辺の筋肉の疲労による腰痛です。長時間デスクワークをする方に多いですね。それに、いわゆるぎっくり腰と呼ばれる「急性腰痛症」の方も多い。
他には、「椎間板ヘルニア」や背骨に変形が生じる「変形性脊椎症」、外部からの圧迫によって背骨が傷んでしまう「圧迫骨折」など、腰が痛いという症状にはさまざまな原因があり、それによって病名が変わるんですよ。
ちなみに腰痛を症状ではなく、「痛みの要因」で分類するとどのようなものがありますか。
痛みの要因を分かりやすく分類するのなら、急性・慢性・心因性・混合性に分けられます。混合性は複数の痛みの要因が組み合わさったものです。
心因性の腰痛というのがあるのですね!それにはどんな症状があるのでしょうか。
心因性の腰痛とは精神的なストレスが引き起こす腰痛です。治療には心理的カウンセリングも必要で、整形外科と精神科の医師が一緒に治療している病院もあります。
腰痛治療はあらゆる原因の可能性が考えられますが、外来でお話を聞き、診察させていただくことでほぼ診断は尽きます。確認も含め検査を行い原因特定して治療法を決めるのですが、心因性を疑った場合は専用の問診表も書いていただいたりします。慢性的な腰痛に苦しむ患者さんにはうつ病の治療になる方もいるし、自律訓練法(※)という手法も取り入れたりしています。
コロナ禍で不安な気持ちになったり、在宅ワークで人とのコミュニケーションが希薄になったりして、心因性の腰痛も増えているかもしれませんね。
そうですね。私は心因性の痛みを緩和するための認知行動療法として、患者さんに「ありがとう日記」をつけてもらうようにしています。
コロナ禍で大変な時期ですが、ネガティブなことより1つでもいいから”ありがとう”と感謝できることを見つけ、それを口に出したり文章にしたりするよう勧めていますよ。辛い日常の中で幸せだと思えることを見つけるようにすると意識も変わってきますし、痛みを和らげる手法としても有効なんです。
椎間板の寿命は30歳?!幼い頃からの習慣が将来の腰に影響する
よくある腰痛の1つとして「ぎっくり腰(急性腰痛症)」を挙げられていましたが、これはどんな状況で発症するのですか。
ぎっくり腰は急に体の向きを変えた時、靴下を履こうとして屈んだ時、立ち上がろうとした時など、動いた瞬間に椎間板の「内圧」が上がったり、筋肉に無理な負担がかかったりして突然腰に痛みが走る疾患です。押しても叩いても痛くないが動くと痛いのが特徴なのですが、検査では原因は特定されるわけではありません。私たち医師は発症した状況や症状、病歴などからある程度の診断はつけていますが、そのすべてがレントゲンやMRIでははっきりした異常がみつからないこともあります。
ちなみに、椎間板の寿命は30歳と言われています。幼い頃から椎間板内圧が高まるような姿勢を続けてしまうと椎間板を傷つけてしまって、加齢した時に腰痛に悩まされやすくなってしまうんです。例えば、重い荷物をひざを曲げずに立ったまま持ち上げる人と、1度しゃがんで荷物を抱え込むように持ち上げる人では椎間板への負担は格段に変わってきます。幼い頃から椎間板を労った動きをすることが大事です。
椎間板の内圧とは何ですか?また、内圧が上がると腰痛のリスクを増すのは何故なのでしょうか。
椎間板は、中心の髄核(ずいかく)と呼ばれるゲル状のものと、それを取り囲む線維輪(せんいりん)で構成されています。
髄核が外に出ようとする力を「椎間板内圧」と呼んでおり、内圧が上がって髄核が線維輪を傷つけて外に出てしまい神経圧迫してしまった状態を「椎間板ヘルニア」と言います。また、線維輪が傷ついた時は、早く痛み止めを飲むことが慢性腰痛症の予防にもつながります。
椎間板の線維輪を傷つけないことが腰痛の予防に繋がるため、できる限り椎間板内圧を上げないような注意が必要なんですよ。
腰が痛くなったらどうすればいい?実は別の病気の可能性も
腰痛に悩んでいる時、対処法の選択肢としてはセルフケア、カイロプラクティック(※)など有資格者によるケア、専門医によるケアの3通りがあると思います。それぞれどの程度の症状の場合に有効か教えてください。
私の患者さんには、セルフケアをする場合、湿布を貼っても痛みが治まらないときは病院に行ってくださいと言っています。民間療法も悪くはないと思いますが、腰痛の原因や病名を特定することはできません。診断ができて初めて正しい治療が進みますので、専門医のきちんとした診断を受け症状にあった治療をしていくのが望ましいと思います。
すぐに病院に行った方が良い症状というのはありますか?
足が痺れる、足の指を自力で上げることができないなどの症状があったら神経症状の恐れもありますから、すぐに専門医を受診するべきですね。
腰痛で来院されたけど、実は別の病気だったというケースはありますか。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)の方が腰の痛みを訴えて来院されることは多いですね。帯状疱疹は赤い斑点と小さな水ぶくれが現れる病気です。基本的には皮膚科の疾患ですが、発症の初期段階には皮膚の変化は見られず、ピリピリとする痛みだけを感じるので神経性の腰痛だと思われる方が多いのです。
また、結石になり石が背中側(腎臓側)にある間は腰痛の症状が出ます。時間が経って石がお腹に下がって腹痛を起こす場合もありますね。
腰痛を予防するためのトレーニング方法
腰痛にならないために普段の生活習慣で気を付けるべきことはありますか。
腰は一生を通じて負担のかかる場所ですから、先程お話ししたとおり、若い頃からなるべく負担のかからない生活をするよう心がけてください。体幹トレーニングをしっかりするといいと思います。
体幹トレーニングが大事なのですね!それは筋肉を鍛えて腰を守るためでしょうか。
モーターコントロールという考え方があります。これは歩く、走る、かがむ、荷物を持つなど生活の中の全ての体の動きに対して神経や関節、筋肉がどのように結びついているのかを考え、それらが上手く調和した体づくりを目指すものです。
例えば物を拾うときは筋肉が動きますが、関節をぐらつかせたまま筋肉を動かしている人と関節がぐらつかない人では筋肉への負担が全く異なり、骨への負担も変わってきます。筋肉を正しく動かして腰痛を防ぐためには、骨や関節も正しく動かす必要がありますからモーターコントロールを意識した体幹トレーニングが効果的なのです。
自宅でできるストレッチやトレーニングなど、腰痛を予防するため生活に取り入れた方が良いものがあれば教えてください。
腰痛防止のためには体幹を鍛えるエクササイズがおすすめですね。例えば背骨をぐらつかせないためにダイアゴナルトレーニング(※)を試してみたらいかがでしょうか。もちろん、腰痛になってしまったらまず受診して取り掛かるべきトレーニングを医師や専門家にしっかり指導してもらうことが大切ですよ。
※写真のように四つん這いになった状態で、片方の腕と、その腕と逆側の足を地面と垂直になるように上げて静止するトレーニングのこと。
腰痛予防アイテムを上手に使って在宅ワークも乗り越えて!
最近在宅ワークの方が多く、いつもとは違う環境、姿勢で働くことによる腰の不調が増えてきている気がします。デスクワーク中の正しい座り方はどのような姿勢なのでしょうか。
深く腰掛けて背中がまるくなる姿勢は椎間板内圧をあげると言われているので、浅く腰掛けて骨盤が前傾するような姿勢で座った方がいいですよ。背もたれと背中の間にクッションを一枚入れておくと、無理なく正しい姿勢をとれるのでおすすめです。あと、30分に1度は立って太ももを支える大きな筋肉であるハムストリングスの伸ばすといいでしょう。
腰の不調で骨盤ベルトをつける人もいます。骨盤ベルトのつけ方、注意点などがあれば教えてください。
骨盤ベルトは筋肉の代わりに下っ腹と腹部を支え、腹腔内圧を上げて体幹を安定させるために着用するものです。しかし長く着用していると筋力そのものが落ちる可能性もあります。腰の痛いお母さんが赤ちゃんを抱く時に着用するなど、目的を絞って使用した方がいいでしょう。体を鍛え、最終的にはコルセットをつけているかのような体を作ることが望ましいです。
腰痛を正しく知って、健やかな毎日を
コロナ禍では運動不足になりがちな状況であることに加え、慣れない在宅ワークで腰の負担が高まっていないか心配ですよね。腰痛には多くの原因が考えられるため、専門医の診断に従って正しく治療することが回復への近道。そして、普段から適度な運動やトレーニングをすることが予防に繋がることを学びました。井上先生、ありがとうございました。
松浦整形外科内科
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